“(記事①)
 交通事故において、被害者は自己の直接の加害者に対し不法行為に基づく損害賠償を請求することになります(民法709条)。これに対し、加害者は、3年の消滅時効(民法724条前段)を主張し、また、過失相殺(民法722条2項)を主張するなどして被害者の請求に対し反論することになります。
 それでは、交通事故による被害者の損害に関し、被害者の肉体的・精神的疾患や体質などが原因で損害が拡大した場合(このことを被害者の素因といいます)、加害者側は何らかの反論をすることが出来るのでしょうか。
 不法行為に際して、民法上、被害者の素因を考慮して賠償額を決めるという規定はありません。しかし、過失相殺(民法722条2項)が損害の公平な分担を図るために認められていることからすると、被害者の素因が原因で損害が拡大した場合、賠償額算定にあたり考慮すべきとも思われます。よって、被害者の素因に関し、過失相殺の規定(民法722条2項)を類推して考えることになります。判例は、損害と加害行為との間に因果関係があり、被害者の心因的要因により損害が通常加害行為から生じる損害を超えるような場合に過失相殺(民法722条2項類推適用)を認めています(最判昭和63年4月21日参照)。
 交通事故の加害者は、被害者の素因で損害が拡大したという事情があれば主張出来ることになりそうです。もっとも、交通事故の加害者としては、弁護士とよく相談した上で行うべきでしょう。
(記事②)
 被害者の素因について、交通事故に限らず、労災などの様々な場面で問題となっています。以下、被害者の素因で裁判になったケースについていくつか見てみましょう。
 まず、前述した昭和63年のケースは、交通事故により長い間治療することになりましたが、その原因が被害者の心因的要因によるケースでした。
 次に、被害者の体格が一般的な人に比べて異なる特徴を有し、それが原因で損害を拡大させてしまったケースはどうでしょうか。判例は、被害者の体格が一般的な人に比べて異なるとしてもそれが疾患にあたらない場合、特段の事情がない限り損害賠償の額を算定する上で考慮することは出来ないとしています(最判平成8年10月29日参照)。
 その他にも、真面目で責任感が強いという被害者の性格が自殺につながったケースで、判例は原則として被害者の性格を考慮して賠償額を算定することは許されないとしています(最判平成12年3月24日参照)。
 被害者の素因を賠償額算定にあたり考慮できるか否かの問題について、上記ケースはほんの一部に過ぎません。実際に、交通事故において被害者の素因を賠償額算定にあたり考慮されるか否かは事案に応じて結論が変わる可能性もあります。弁護士等の専門家に相談されるのがベストと思われます。
(記事③)
 交通事故において被害者の素因を考慮して損害額を決めることについて、判例の立場をいくつか見ました。判例では、被害者の素因を賠償額に反映させることを認める場合もあり、認めない場合もあることが分かります。この問題に関し、学説は、被害者の素因による賠償額の減額ができるか否かについて肯定・否定の各立場から議論がされています。例えば、被害者の素因を考慮して損害額を決めることに否定的な見解は、被害者が何ら自己の肉体的・精神的疾患や体質について認識していない場合にまで賠償額の減額という不利益を課すことは妥当でないとの批判があります。
 たしかに、被害者の素因があれば必ず賠償額が減額されるとするのは、何ら自身の素因を知らない被害者にとって、もらえる賠償額が減額されるという不利益を甘受させるのは酷とも思えます。一方で、損害の公平な分担という過失相殺の趣旨からすれば、被害者の素因により損害が拡大してしまった部分まで加害者に賠償させていいものか疑問があります。
 このように、被害者の素因を賠償額に反映できるのか否かについては非常に難しい問題が背後にあるのです。そのため、仮に交通事故で被害者の素因があったとしても、ケースによっては賠償額に反映されない場合もあることを押さえておくべきです。相談においては弁護士等の専門家の意見を踏まえ、被害者の素因を賠償額に反映できるケースなのか否か考える必要があります。”
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