“(記事1)
交通事故に巻き込まれた場合、加害者である自動車の運転者のほかに自動車の持ち主にも損害賠償責任を問うことができます。これは、運行供用者責任という考え方によるものです。この記事では「車の持ち主」という言葉を使いましたが、運行供用者責任を問うことができるのは車の名義上の所有者に限るわけではありません。車検証をみるとわかるように、自動車をカーローン・オートクレジットで買った場合は厳密にはその車の「所有者」はクレジット会社や自動車販売会社です。車を買った人は分割払いが終わるまで「車の使用者」という立場なのです。この場合に運行供用者責任を問うことができるのは、自動車の使用者であることに気をつけてください。もちろんカーローン等の支払が終われば車検証の記載も変わって、車を買った人が名義上の所有者になり、使用者にもなるわけです。運行供用者責任を考える必要が大きい場合として代表的なのは、収入や財産がない人が起こした交通事故です。子供が親の自動車を運転して事故を起こすことはよくあります。知り合いから借りた車を運転している大人が交通事故を起こす、ということも考えられるでしょう。このように、自分のものではない車を運転して事故を起こした人に損害賠償に応じる能力がない(お金がない)場合に、車の持ち主に責任を問う範囲を広げられるのが運行供用者責任の考え方なのです。このような交通事故で弁護士に依頼して損害賠償請求訴訟を起こすような場合、代理人である弁護士は事故を起こした子も車の持ち主である親にも同時に訴えを起こすことになるでしょう。
(記事2)
運行供用者責任の根拠は、自動車損害賠償保障法第3条にあります。条文の「自己のために自動車を運行の用に供する者」が運行供用者にあたります。自分が車を運転していなくても、自分のために誰か他の人に車を運転させている人、という意味です。親が子供に親名義の車を運転させ、親は助手席に座っている場合は想像しやすいでしょう。親が同乗していなくても、親が自分を含む家族のために持っている車を子に運転させることは、広い意味で(その車を子供が使えることも含めて、家族の生活を平常通り行えるから、と考えてください)親自身のために自動車を子に運行させている、ということになります。
こうした状況で交通事故が起き、被害者に人身事故が発生した場合にはまず加害者自身である運転者に責任を問うのが通常の不法行為、つまり故意や過失で他の人の権利を傷つける行為による損害賠償請求の考え方です。不法行為について詳しい説明は弁護士の相談で聞くことができます。
その事故で加害者自身に損害賠償に応じるだけの財産がないとか、会社が車の持ち主である場合など運行供用者に直接請求したほうがすみやかな損害の賠償が得やすい場合には、運行供用者責任の考え方をつかって被害者の権利を守っていくということになります。ある年齢未満を不担保にする自動車保険に入っている車を親が子供に運転させ、その自動車保険で担保されない年齢の子供が事故を起こしたような場合はまさに親自身の財産から損害を賠償させなければならないでしょう。損害賠償をめぐる争いで、複数選べる相手のうち請求しやすい方に請求する、というのは弁護士が依頼人の利益を守るために一般的に考えている方法です。
(記事3)
運行供用者責任の考え方には限界があります。自賠法第3条では、運行供用者責任を問えるのは自動車の「運行によつて他人の生命又は身体を害したとき」だけです。自動車が起こした事故でなければなりませんから自転車対歩行者の事故にはこの考え方は適用されません。死亡や怪我のない物損事故についても、自賠法第3条による運行供用者責任を問うことはできないのです。
これを限定的に補う他の法律として、民法第715条の使用者責任が挙げられます。
これは、所有者が会社である車を運転していて労働者が物損事故を起こしたような場合に会社に損害賠償請求するときの考え方です。
民法第715条は、ある事業をのために他人を使用する人、つまり事業を営む人や会社に対して、使用される人が誰かに与えた損害を賠償する責任を定めたものです。会社に使用されている労働者がその仕事で物損交通事故を起こしたら、被害者はその責任を会社に問うことができます。
会社に事業に使用される人は、一般的には労働者ですが下請けの人も含みます。加害者側の事業に関する事故に限られますが、物損事故についてはこの使用者責任という考え方もあると覚えておきましょう。一般的には個人より会社のほうが組織や対応がしっかりしており、顧問弁護士の存在も期待できます。事故に関して交渉をはじめる場合は被害者側で弁護士に依頼していれば、使用者責任を問えそうなら使用者側にもまず請求してみるのが一般的です。”